彼が将軍たる所以

彼が将軍たる所以_________トリスタンの小話です








「…ぐん…将軍…トリスタン将軍!!」
「…ん、何だリオンか」

トリスタン将軍と呼ばれた青年はソファーからゆっくりと体を起こし、ガラス製のテーブルに置かれた水を飲み干した

「おえっ…気持ち悪…」
「昨夜さんざん飲みまくって遊んだからでしょう!自業自得です!そんなことより何故今朝の会議に出席なさらなかったのですか!?」
「あー、はいはい。その話ね。うーんどうしてだろうね?」
「二日酔いとかそんなものでしょう!?」
「正解」

彼がわははと笑うと部下は「ふざけないでください!」と怒鳴り、彼はうるさそうに手を振った
そして緩まったベルトを締め直し、重たそうにソファーから腰を上げるとぬぎちらかした上着に手をかけた

「…で?会議の内容は」
「軍備拡大のため近々隣国のルカと条約を結ぶとのことでした。それとやはりラガンとの条約締結は難航しているようでして…」
「あー、やっぱりそれか。よかったよかった」

大きく伸びをすると脱ぎ捨てられたブーツを履き、芝居掛かった口調でこう言った

「ありがとう部下殿よ!会議を欠席し、寝ているダメ上司にわざわざ情報を伝えてくれて。えー、その功績を讃え、褒美を授けよう。はい、チョコ」

大げさなお辞儀をし、テーブルに置かれた小物居れのミルクチョコレートを一粒リオンに手渡して黒革の手袋をはめた

「馬鹿なこと言ってないで早く支度してくださいよ」
「はいはい」

彼は部下の背中を軽く叩くとマントを羽織り部屋を出た


リオンか散らかったテーブルを片付けようとしたらぱさりと書類が落ちた
元に戻すついでに内容を見てみると今朝の会議に上がっていたルカとの条約内容が事細かに書かれていた
豪遊しておいても仕事はそれなりにやってるんだな…
あの人はどうも自分に合わないが、こういうところだけはきちんとしている
ただもう少し全体的にきちんとして欲しいところだ


城内を歩いているとトリスタン将軍がまた目に入った
影で女の子を口説いては仕事をサボって遊び歩こうとする。とても厄介だ。何が彼をそうさせるのか理解できない。
前に一度理由を聞いた時は「可愛い子はつい声かけたくなっちゃうじゃん?」と返された
やはりどうもあの人性格と自分の性格は合わないようで、何度もこの仕事を辞めようと思ったが、結局はあの人に言いくるめられたのだった


ルカへの遠征の日がちかづいてきた
日に日に慌ただしくなる城内から苛立ちを感じさせる
自身もこの状況に多少の不満を抱いており、ちょっとしたことで怒鳴ってしまいそうだった。そんな時だ
部下がせかせかと備品の整理やルカの情報収集している中、どこぞの将軍さんはふらふらと女を探してぶらついているじゃないか
その光景が自身の苛立ちを爆発させた

「トリスタン将軍」
「リオンか、ちょっと今忙しいから後に…」

城内に響く頬を打つ音
静まり返る兵達

「いった…何すんだよ!!」
「貴方は将軍としての自覚があるのですか!?貴方の行動は目に余ります!
もう少し人の上に立っているということを自覚してください!!貴方は将軍なんですよ!」
「はぁ、生意気言うなぁ。部下に馬鹿にされるとは」
「将軍、貴方の行動が悪いんですよ!第一将軍という立場でありながら自覚もなく娯楽に現を抜かして…」

突如リオンの頬を火球がかすめる。弱めの大文字だろうか
しかしもし顔に当たりでもしたら火傷程度では済まされない

「口を慎めリオン。お前も立場がわかってないようだ」

冷たい侮蔑の視線がリオンに向けられる

「立場も何も今回ばかりは貴方が悪い。そうじゃありませんか?将軍」
「今日は強気だね」
「ええ、ええ、いつも貴方に言いくるめられてましたからね。しかしもう見過ごせません。」
「そんなに文句あるなら勝負しようよ」
「…は?」
「カリカは実力がモノを言う、そうだろう?さぁリオン、武器を取れ」
「しかし今そんなことしている場合では…!」
「いいから取れ」


鋭く刺さるような目つきでリオンを睨む
いつものへらへらとした道化のような笑顔はどこへ行ったのか姿を一切見せない。彼の顔には侮蔑の表情しかなかった
こうなってしまっては仕方ないと、リオンは腰についた鞘からレイピアを抜き出し顔の前に掲げた

「そっか、リオンのお気に入りはレイピアだったね。俺もそれに合わせるとしよう」
「なっ、それではフェアじゃありません!!将軍も専門の武器で…」
「黙ってな」


彼は近くにいた兵からレイピアを借りると試し振りをした
剣先が空を切る。ヒュッという音を鳴らし彼は剣先をリオンへと向けた

「さぁやろうじゃないか。なに、殺したりはしない。あたりどころが悪くても精々腹を刺すくらいだ」
「…」


この人は本気だ
言ってるように殺しにかかるようなことはしないだろうが指を落とすくらいのことはするかもしれない
しかし今は剣を取るしかない。剣先を彼へと向けた
一呼吸の間の後突如将軍は剣を突いてきた
剣先が喉をかすめる。確実に仕留める気満々じゃないか
こちらも必死に応戦するも守りに徹するしか術がなく攻撃する隙がない
(魔術専門じゃないのかよ…)

「ほら、足元がお留守だ」

その言葉と共に足を引っ掛けられ視界は一回転する
次に見たものは鼻先に向けられた尖った刃物の先端だった
未だ彼は冷めた目でこちらを見てくる。ため息を吐くと剣を下ろした

「手」
「え、ああ、はい…」

彼は手を差し伸べて体を起こさせる
借りたレイピアを他の部下に手渡し、預けていたマントを羽織り
「言いたいことあるなら実力つけてから来な。そうじゃないとここでは誰も話なんか聞かないよ」
そう言ってカツカツとヒールを鳴らし去って行った
呆然と回廊を歩いてゆく将軍を見つめる
あんなイラついた彼は久しぶり、いや、初めて見たかもしれない。最後に何か思い詰めた表情をしていた




___________




「立場を考えろ」「自覚がない」嫌な言葉だ
昔の父の怒声が耳に蘇る
何をうろたえて居るのだトリスタン
どうに縁などもう無いのだから












トリ→お父さんめっちゃきらい→おばあちゃんの影響でお菓子作りが好きだったんだけどお父さんからめっちゃ立場が〜自覚が〜って言われてた→仕方なしに武の道を進む(実家は武家)→おんなじようなこと言われてハァ〜〜〜??ムカつくんですけど〜〜〜?ってなっただけの話

  • 最終更新:2017-07-04 04:54:04

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード